Introduction
でも説明したように,陽電子は物質中に入射すると電子と対消滅して,主に2本のγ線を放出します.
1本のγ線のエネルギーはアインシュタインの式E=mc2より511keVとなりますが,実際には電子は運動量を持っているため,消滅γ線はドップラー効果の影響を受けます.
衝突時のエネルギー保存や運動量保存則からドップラー効果の影響は(1)式で与えられ,消滅相手である電子の運動量が大きいほど,ドップラー効果の影響[僞γ]が生じ,
放射されるγ線が511 keVからよりずれた値になることを示しています.
Eγ
=m0c2±ΔEγ
=m0c2±cpL/2 (1)
ΔEγ=ドップラーシフト, pL = 電子の運動量
Fig.1
に陽電子が物質に入射したときの振る舞いを示しました.材料中に欠陥が無い場合(a)では,正の電荷を持った陽電子は原子核からクーロン反発力を受けるため,陽電子は格子間位置に存在し,電子と対消滅します.一方で,物質中に空孔(b)や空隙(c)が存在すると,
陽電子は欠陥に捕獲され,電子と対消滅します.このとき,欠陥に捕獲された陽電子は,(a)のケースと比較して,価電子(運動量が低い電子)と衝突する確率が増えるため,放射されるγ線はドップラー効果の影響を受けにくく,僞γが小さくなり511
keVに近い値のγ線を放出します.
このように,欠陥濃度や欠陥サイズによって,消滅γ線のエネルギー分布が異なるため,エネルギー分布の鋭さ( sharpness parameter
)を決めることで,物質中の欠陥の議論が可能となります.
▲ Fig.1 陽電子が空孔型欠陥に捕獲されたときのドップラー拡がりスペクトルの変化
・S parameter = 赤いエネルギーウィンドウに入ったγ線の本数 /
全体のγ線本数
・W
parameter = 緑のエネルギーウィンドウに入ったγ線の本数 /
全体のγ線本数
" 欠陥濃度・サイズの増大 → S
parameter (W
parameter)の増加(減少) "