有機半導体分子の単分子層の研究 
  〜室温下での自己組織化構造と電子状態〜







弱く相互作用をする系である有機分子(薄膜)は室温の熱エネルギーを受け、多様な自己組織化構造を形成します。有機半導体材料としての電子物性は、この自己組織化構造により決定されるといっても過言ではありません。


最近になり、光電子分光や理論計算により、有機材料(特に薄膜)の電子物性の物理が徐々に解明されつつあります。一方で室温環境でのこれらの材料の分子レベルの自己組織化構造は十分に知られていないことが多い。揺らぎの多い室温下では、計測自体が難しいため、研究例も多くないのです。


単一分子の電子状態はガス状態の分光と計算である程度詳細にわかっています。一方、表面上の単分子のミクロの電子状態や化学は、ヨーロッパを中心に極低温環境下で詳細に研究がなされています。我々の狙いは、これらの分子の室温での、やや大きめの集合形態とその電気的性質をとらえることです。ここでは、熱拡散があり、ファンデルワールス相互作用やその他の比較的弱い分子間相互作用があり、分子基板相互作用のバランスで集合系のかたちと性質がきまります。これはなかなか計算では予言できない世界です。ここでは、個々の分子の性質だけからは想像できない物性が往々に創発し、それこそが実際のデバイスに使われるのです。


我々は、微視的な構造とマクロな電子状態との関連に特に着目しています。このような研究では、新旧の表面科学の知見や方法論、問題意識が、非常に有効となります。見た目は化学か物理か、博物学かよくわからない領域にみえますが、しっかりした基礎表面物理に立脚しながら研究をおこなっていきます。


本テーマでは特に
(1)電極表面上での単分子層の自己組織化
(2)異種分子、原子の複合系(ドーピング系)の自己組織化
(3)分子スピントロニクス材料創製
をターゲットとしています。

共同研究:NIMS若山Gr、産総研細貝先生、分子研解良先生、JAEA境Gr

表面による分子のテンプレーティング 
  〜次世代半導体表面Ge(110), Si(110)の表面科学〜







分子や原子の自己組織化を利用したものつくりにおいて、室温エネルギーと同時にまな板となる表面のテンプレート効果も重要です。


ダイアモンド構造を有するSiやGeの110面は異方性が強く、一次元的構造を有するので、これをテンプレートとした原子や分子の一次元的な自己組織化ナノ構造の創製に魅力的な表面です。同時にこれらの表面は、それ自身の電子物性も特徴的で、次世代FETチャネル材料の候補という産業的な動機も持ち合わせます。


しかし、これらの表面は、その複雑性から、今まで最も研究されてこなかった表面のひとつでもあります。最近の我々の研究では、これらのよく定義された表面を準備することが可能になってきましたので、基礎的な研究に着手できるようになってきました。まずは、その構造すら未解明である、16x2構造という一次元表面再構成構造の理解から始めています。さらには、この表面の化学反応性の研究や、極薄原子・分子膜の積層等といった、基礎的表面科学研究を進めています。


同時に、この表面の構造の特徴をテンプレートとして生かした、これらの表面上での原子や分子のナノワイヤー創製にも挑戦しています。実際この手法により、様々な面白い一次元構造が作製されつつあります!


現在のテーマとしては
(1)STM及び低速陽電子回折によるSi(110), Ge(110)表面構造の決定
(2)Ge(110)の金属および分子の自己組織化ナノワイヤー創製
(3)Ge(110)表面の酸化反応
をターゲットとしています。

共同研究:NIMS三木Gr、Spring-8 吉越主任研究員

超音速分子線散乱による有機分子膜の成長、構造、振動、反応計測
〜リアルタイム、無擾乱計測&表面反応研究〜  





有機分子の室温での自己組織化現象を本質的に捉えるためには、局所的でスナップショット的なSTMと相補的な、平均的、動的過程に関する視点が重要です。これを担うのが超音速分子線散乱法です。


超音速He原子線散乱は、熱エネルギー程度の低エネルギーで中性の原子ビームであり、非常に表面敏感な非破壊計測を可能とします。これを利用して、壊れやすい有機分子膜の成長過程や振動状態計測等、これまで他の手法では得ることが困難な情報を取得できます。最近では、振動状態計測を通して、有機分子層と基板との結合の強さを測ることが出来るようになってきました。


また、高感度なHe原子線は、表面にいる水素分子さえも検出できる、ほとんど唯一の手法となっており、これを利用すると、これまで知られていない、水素吸蔵材料の表面でおこるプロセスの研究が可能になります。  一方で、この装置により超音速水素分子線を作製することが可能です。これを用いると、水素分子の表面反応の計測が可能となります。

実は、現在、複雑で巨大な装置を必要とする分子線散乱研究は世界的にも少なくなってきており、絶滅危惧種といわれる場合もあります。しかし、現在巷で利用されている表面科学や触媒反応の基礎的知見の多くが、分子線散乱を用いたガスー表面相互作用の膨大な基礎研究の成果として積み上げられてきたものです。分子線による基礎表面計測は、やはり次の有機世代、水素世代で重要になるのは間違いありません。我々は、粛々と基礎研究を進めていくことが本当に重要であると思っています。

現在これらの超敏感計測の高精度化のための装置開発も並行して行っております。
有機膜や水素の計測と同時に、炭化水素分子の表面反応などのやや古い基礎的テーマも遂行できるような装置にしてゆく予定です。

現在のテーマとしては
(1)He、Ar原子ビームによる有機単分子層の振動状態から有機ー基板間相互作用を知る
(2)表面の水素の挙動
(3)有機分子を用いた新規水素吸着材料の創製
(4)触媒表面での炭化水素分子の反応
などをターゲットとしています。

共同研究:Clemson大学 J. R.Manson先生

分子から電子放出
 〜実空間、リアルタイムでの分子軌道の観察〜



分子の自己組織化の素過程の理解において、表面上の分子のうごきや反応を実空間、実時間でみることは非常に重要ですが、これを可能にするのが電界放射顕微鏡/電界員顕微鏡です。


電界電子放出顕微鏡では、材料から電界放出された電子の像を実空間、実時間で観察できます。電界イオン顕微鏡では、材料表面の原子/分子レベルを実時間、原子分解能で観察することが出来ます。これらにより、表面上での分子の形や反応を実時間、分子分解能で捉えるという研究が可能となります。これも他の手法では困難な非常にユニークな計測であり、本研究室の他の手法と相補的な研究ができます。

一方、近年、グラフェンやカーボンナノチューブ等の炭素のナノ材料からの電子放出パターンに、分子軌道を反映した特徴的なパターンや、電子波の干渉と考えられるイメージが出現することが知られてきました。これは、分子軌道の波動関数がコヒーレントなまま真空中に放出できるという可能性を示しています。これが確立できれば、分子軌道の実時間実空間観察に繋がります。

また、このような現象は基礎科学的に面白いだけでなく、次世代の高品位電子源としての応用も期待されています。特に、このような現象は従来の電子放出理論では全く考慮されていないという事実が基礎的には興味深いです。既存の電子放出材料は(実は至る所に使われているのですが)、かなり古い、マクロな理論に基づいており、実際それである程度はうまくいっているのです。しかし、これを凌駕する性能を出していくためには、やはりミクロなアプローチが必要となります。本研究では、ミクロな電子放出の基礎的学理を打ち立てることを、地味に狙っています。

現在、グラフェンや炭素系低分子からの電子放出パターンを観察しており、やはり特徴的なパターンが現れることを確認しています。さらにこれらのエネルギー状態を計測するための装置開発を行っています。

現在のテーマとしては
(1)グラフェンエッジからの電子放出パターン
(2)C60等の良く定義された有機分子膜からの電子放出
(3)アモルファス炭素膜の低電界電子放出機構
などをターゲットとしています。

高分子-生体分子の自己組織化
 〜アミロイド線維〜




生体の高度な自己組織化にたどりつくためには、より大きな分子(高分子、生体分子)の自己組織化を検討する必要があります。


かといって、対象があまりに大きく、複雑にすぎるとよい研究になりません。ここでは、プローブ顕微鏡で追える程度の大きさの自己組織化構造として、タンパク質やペプチドの一次元状凝集形態であるアミロイド線維に注目しています。


アミロイド線維は、タンパク質/ポリペプチドがβシート結合により延々とつながっていく構造体の総称で、多くのタンパク質がこのような変性状態をとりうることら、タンパク質/ポリペプチドの比較的普遍的な集合形態であるとされています。しかしこれはいわば「結晶」であり、エネルギー的に安定化しているため、タンパク質のような「働き」はしません。むしろ、生体内でこれができると、アルツハイマー病のような神経変性疾患の原因となります。


このようにアミロイドは生命と物質でいうといわゆる物質側にいるものですので、マテリアルサイエンス的な扱いはできます。一方で、アミロイドとその形成過程に注目することによって、逆にネイティブ状態のタンパク質がなぜ「物質化」を免れて、「生き」た状態であり得るのか、がわかるのではないかという、かすかな期待もあります。

現在のテーマとしては
(1)アミロイド形成過程に与える異種分子添加の影響
(2)アミロイド-金属複合材料創製
などをターゲットとしています。

共同研究:筑波大学山本(洋平)先生、白木先生

真性粘菌の自己組織化
 〜なぞ〜


はてしない生命の自己組織化現象を研究するのに、単純な系として(多核)単細胞生物である真性粘菌は良いのではないかとおもわれます。今のところただみているだけです。しかし、数々の創発現象をいとも簡単に見せてくれます。わけが分かりません。

現在のテーマは
(1)えさやり
です。

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